『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』18号 2014年9月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―
驚きの復活
かいぼり後に七井橋の近くに生えてきた沈水植物です。ヒルムシロ科のイトモ、あるいはその類似種と見られていて、今ではお茶の水池の数か所に群落を作っています。ちなみに、水生植物は、水底から葉を水上に伸ばす抽水植物、葉を水面に広げる浮葉植物、全体が水中で育つ沈水植物、そして全草が水面に浮かぶ浮遊植物に大別されます。
「水草」の範囲は曖昧ですが、一般的には、沈水植物と水中葉を多く付ける浮葉植物を指すことが多いと思います。抽水植物のガマやミクリの仲間、サジオモダカなども池底から芽生えてきました。最近では、沈水植物のヒロハノエビモの群落も確認されています。いずれも、かいぼり前には見られなかった水生植物です。かいぼりの結果、水の透明度が増して日光が池底に届くようになったため、底泥の中で眠っていた種子、すなわち埋土種子が発芽できるようになったのでしょう。生えてきた水草をすぐに食べてしまうソウギョなどを駆除したことも大きいと思います。
湧水が豊かだったころの井の頭池では、澄み切った水中に水草が揺れ、その間を小魚が泳ぐ神秘的な光景が見られたそうです。湧水が涸れてしまった今でも、水草の存在は重要です。水中や底泥中の養分を吸収して池を浄化するとともに、小魚など小さな生き物の隠れ場所になるからです。そのため、底泥を採取して、かつて生えていた水草の埋土種子を発芽させる試みが専門家により行われています。
水深のある場所での自然発芽は、そんな専門家たちをも驚かせました。不思議なことに、イトモもその近似種も、かつて井の頭池に生えていた水生植物のリストに記録がありません。カモなどの体にくっついて運ばれてきたのかもしれません。自然は複雑で、しばしば予測が困難です。たぶん間違いないのは、さらに水草が増えれば井の頭池の水は今よりさらに透明になることと、そうなると毎年の水草刈りが欠かせなくなることです。
田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。
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(『いのきちさん』18号 2014年9月1日発行 掲載)
イトモ?の群落
見つかったヒロハノエビモの「切れ端」