『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』20号 2015年1月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―
池が変わるとカモも変わる
白黒のボディに金色の眼と後ろになびく冠羽が特徴のカモ。もっとも、メスは白黒ではなく焦げ茶色です。「羽白」とはオスの胴体の羽ではなくて、翼を広げると見える風切り羽が白いからです。
大陸で繁殖し、冬越しのため日本に渡ってきます。潜水してシジミなどの二枚貝を採食するため、大きな川の河口などで暮らすことが多かったのですが、人々が与えるエサを求めて、市街地の公園の池にも来るようになりました。井の頭池で数が増え始めたのは、オナガガモより20年余り遅い1990年代後半。その後急増し、ピークは、井の頭自然文化園の記録によると、2005年の190羽です。その頃は、日が暮れると一斉に池を飛び立って行くのが毎日見られました。彼らは夜明け前に再び井の頭池に飛来します。
その後数が減ったのは、2007年3月に始まったエサやり自粛キャンペーンが最大の理由です。ただしオナガガモの急減ぶりとは異なり、キンクロハジロの減り方は緩やかで、たまに現れるエサやり人の下に殺到する光景が相変わらず見られました。
暮らしぶりがさらに変わったのが、2014年の1月~3月に井の頭池のかいぼりが行われてからです。水が満ちた池に戻った彼らは盛んに潜水をするようになりました。井の頭池にはシジミはほとんどいませんが、かいぼり効果で増えた水生昆虫やエビなどを捕って食べているようです。水が澄んだので、水中を泳ぐ姿が見えることもあります。エサやり自粛が始まってから行くようになった弁天池にまったく行かなくなりました。「海ガモ」とも呼ばれる彼らは、本当は狭い場所が嫌いです。
エサをくれそうな岸辺の人やボートを必死で追いかける姿もめっきり減りました。夜も飛び去らずに、池で一日中過ごしているようです。個体数はピーク時の10分の1ほどになりましたが、今も来ているのは本当に井の頭池が好きな個体なのでしょう。井の頭池はその程度の数のカモなら自活できる池になったのです。
田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』20号 2015年1月1日発行 掲載)
オス(左)とメス
潜水中のメス