井の頭公園の生き物たち|第27回「ユリカモメ」

2018.04.10

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』27号 2016年31日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

臨機応変、東京都の鳥

かいぼりで水が減った井の頭池に、突然この鳥が現れました。日に日に数を増し、多い時は20羽をゆうに超えました。水がある場所がどんどん小さく浅くなり、そこに魚が集中して捕りやすくなったからです。井の頭池でユリカモメを見たのは初めてだ、と言う人が少なくないのですが、じつは、2006年度の冬までは多数来ていた鳥です。

カモなどへのエサやりが盛んな時期で、ユリカモメもそれを目当てに毎朝通ってきていました。エサに群がるときはキャーキャーうるさいものの、水面を泳ぐのも地面を歩くのも自在で、優美に飛翔する姿にファンも多かったのです。とくに夕方、上昇気流に乗って一斉に青空高く舞い上がり、帰っていくようすは見ごたえがありました。

カモメの仲間は海の鳥ですが、ユリカモメはかなり内陸まで飛来します。昔は都鳥(みやこどり)と呼ばれたため、東京都の鳥に指定されています。ユーラシア大陸の広い範囲に分布する鳥で、日本では冬鳥です。日本に来るものは、カムチャッカ半島やシベリア東部の北極圏で子育てをするそうです。それほどの飛行能力なら、東京湾から井の頭までなどまさに朝飯前です。

そんなユリカモメが、2007年の3月にエサやり自粛運動が始まると、ぱたりと姿を見せなくなりました。エサやりがない公園より楽に餌が得られる場所へ移動したのでしょう。

2年前のかいぼり25のとき来てもよかったはずですが、来ませんでした。それなのに、今回は多数やって来たのが不思議です。年末から年始に近隣の複数の公園で、少数のユリカモメを見かけました。例年より多い頻度です。もしかすると、海のほうで何か問題があり、内陸部へ偵察に来ていたのかもしれません。そのうちの1羽がかいぼり中の井の頭池に気づき、それが仲間にも伝わって、多数が飛来するようになったのではないでしょうか。もっとも、彼らが集まる場所を変えた本当の理由は、その行動域全部を見ないと分かりません。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

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(『いのきちさん』27号 2016年3月1日発行 掲載)

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