『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』32号 2017年1月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―
いない理由
その名の通り、幅広で長いくちばしを持つカモです。カモ類のくちばしの両側には餌を濾しとるための「櫛(くし)歯」があります。ハシビロガモのそれはとても細かく、櫛というよりブラシです。
上の写真のように、くちばしの先を水面につけたまま泳ぎ回り、先端から取り入れた水を両側のブラシを通して出すことで、プランクトンなどの微小な餌を濾しとって食べるのが得意技です。前の個体が水をかき混ぜるとプランクトンが水面に浮いてくるらしく、一列になって採食するのが見られます。
毎年来る冬鳥ですが、現在(2016年12月)の井の頭池には1羽もいません。10月ごろは数羽来ていたのに、いなくなったのです。理由としてまず考えなければならないのは、餌の量でしょう。かいぼり29の結果、池の透明度が増しました。それはつまり、水中のプランクトンが減ったということです。かいぼり25の後にも水が澄みましたが、ハシビロガモは滞在しました。そのときの彼らは、日中は水面に浮かんでいる餌をついばんでいて、日が暮れると上記の濾過採食を始めるのでした。
そこで、昼と夜にプランクトンネットを引いてみたところ、夜のほうが圧倒的に高密度のプランクトンがいることが分かりました。日が暮れると、ゾウミジンコという小さなミジンコが大挙して水面近くへ上がってきていたのです。2月のことでした。先日、夜の同じ時間帯に同じ場所で同じ方法を使ってプランクトンを調べてみました。採れたのは少数のケンミジンコだけでした。今後ゾウミジンコが増えるのか、それが増えればハシビロガモが戻ってくるのか、注目しています。
もっとも、私が見た限りでは、近隣の公園の池にもこの冬はハシビロガモが少ないようです。10月末の皇居のお濠には多数いました。カモは飛べるので、より良い場所があればそちらに移動します。広い範囲を調べて比較しないと、ハシビロガモが井の頭池にいない本当の理由は分かりません。
田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。
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(『いのきちさん』32号 2017年1月1日発行 掲載)
メスとオス(右)
ブラシのような櫛歯