『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』16号 2014年5月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―
小さな虫の大きな仕事
かいぼり後、冬ガモのキンクロハジロが、人にエサをねだらずに、盛んに潜水を繰り返すようになりました。彼らが採っていたのは、ユスリカの幼虫「赤虫」だと思います。かいぼりで見つかった生き物のうち、まだ寒い3月や4月の初めに増えられるものはそれしか思いつきません。かいぼり前の調査で、井の頭池には底生動物が極端に少ないことが分かりました。その原因だった、大量のコイなどがかいぼりで一掃されたため、赤虫が増えたようです。実際、池畔や橋の上を舞っているユスリカの成虫がかいぼり前よりかなり増えました。
ユスリカは姿が蚊に似ていますが、属する科が違います。口器がないため人を刺すことはありません。オスは「蚊柱」を作ってメスを呼び込みます。何も食べないで繁殖し、羽化後ごく短期間(1~2日とも言われます)で生涯を終えます。幼虫は底生で、泥などで作る筒の中にいて、夜に出てきて生き物のかけらを食べます。蛹は泳ぐことができ、水面であっという間に羽化します。日本のユスリカは千種類ほど。冬に羽化する種類もいます。井の頭池でもユスリカが年中見られます。
小さくても栄養価が高く、他の生き物の重要な食糧です。井の頭池の魚もエビもカメも、トンボのヤゴなど水生昆虫も赤虫が大好きです。ツバメやコウモリやトンボは池の上を飛ぶ成虫を捕食し、カイツブリは水面に落ちたり岸辺の草などに止まっている成虫を拾って食べています。多くの生き物の命をユスリカが支えているのです。
ユスリカがしている大きな仕事がもうひとつあります。池の有機物を食べて育った幼虫が成虫となって池を飛び出し、池の外の生き物に食べられたり、地上に落ちたりすれば、池の養分を外に運び出したことになります。富栄養化を抑え池を浄化しているのです。たくさんのユスリカが蚊柱を作っていると、口に入ったり目に入ったり、とても迷惑ですが、その大きな働きを考えて、ちょっと大目に見てあげましょう。
田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。
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(『いのきちさん』16号 2014年5月1日発行 掲載)