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井の頭公園の生き物たち|第19回「ナマズ」

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』19号 2014年11月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

ギギとの明暗

このナマズ(ナマズ科)のほかに、井の頭池にはギギ(ギギ科)というナマズ目(もく)の魚がいました。両者は体型が似ているものの、尻びれと尾びれの形がまったく異なるので区別は容易です。どちらも本来は西日本の魚ですが、かいぼりでは、ナマズは在来生物として保護対象となり、ギギは国内外来生物とされ駆除対象になりました。

外来生物法では明治時代以降に国外から持ち込まれた生き物を外来生物と定義しており、それに準じて、江戸時代に東日本に移入され、井の頭池にもかなり前から生息しているナマズと、近年井の頭池に放されたと考えられるギギの処遇が分かれたのです。結局、かいぼりで保護されたナマズは約40匹、駆除されたギギは140匹以上でした。

ギギは稚魚も見つかり、繁殖していたことが確認されています。一方のナマズは、産卵場所として好む泥底で水深が浅く抽水植物が生えた水域も存在し、繁殖期の夜には産卵行動中のカップルも見かけるのに、稚魚や小さな個体が見つからない状況が近年続いていました。

ところが、かいぼり後の5月、ナマズの稚魚が次々に発見されました。稚魚が見られなかったのは、コイやブルーギルやオオクチバスなどに卵や稚魚を食べられてしまっていたからだと分かったのです。ナマズは卵を産みっ放しにします。それに対してギギは、岩の間に卵を産み、それをオスが守ります。

ナマズの稚魚の成長は目を見張るほど早く、やがてザリガニワナに幼魚が夜の間に毎日複数入るようになり、9月には全長が30cmを超えるものも現れました。アメリカザリガニを食べていた外来魚が駆除された今、ザリガニを減らしてくれそうな在来生物のエースです。もっとも、その大食漢ぶりからすると、在来の小魚やエビも相当数食べているに違いありません。しかしながら、長い歴史の中でナマズと共存してきた在来生物は、ナマズのせいで絶滅してしまうことはないと考えられています。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』19号 2014年11月1日発行 掲載)

 

ナマズの成魚と幼魚

ナマズの稚魚

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