株式会社文伸 / ぶんしん出版

井の頭公園の生き物たち|第21回「カルガモ」

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』21号 2015年3月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

渡りをしない利点

井の頭池で見られるカモの種類のほとんどは冬鳥で、夏は餌の生き物にあふれる広大な大陸で繁殖をします。それに対して、カルガモは留鳥です。井の頭池だけでなく、神田川などの川やほかの池を行き来しながら、豊富とは言い難い餌を探し、水辺の小さな茂みに巣を造って子育てをします。

渡りをしない地道な生活のメリットは、長旅に要する時間を省略でき、途上の危険も回避できることです。実際、井の頭で年2回繁殖するカップルが見られます。オスも一年中地味な色なのは、渡りをするカモと違って、必ずしも毎年繁殖相手を見つけ直す必要がなく、ライバルも少ないからでしょう。カルガモのオスも子育てをしませんが、母子に付き添うオスがいるし、繁殖期以外にもカップルを見かけます。派手な繁殖羽にならなくて済めば、安全上有利です。

とはいえ、近年の井の頭池での子育ては順調とは言えませんでした。来園者のエサやりが盛んだったころは池でヒナを孵す母ガモが毎年複数いましたが、エサやり目当てに集まっていたカラスにヒナが次々に捕食されました。エサやり自粛キャンペーンでカラスは減ったものの、井の頭池には自然の餌が不足していたため、母ガモは神田川へヒナを連れていき、そこで子育てをしていました。神田川には自然の餌が十分ありますが、増水もしばしば起こるため、毎年多くのヒナが流されました。

かいぼり後の昨年5月中旬、池に7羽のヒナを連れた母ガモが現れました。当初母ガモには母親の自覚が見られず、ヒナへの目配りがまったくできていなかったため、3羽のヒナを失い、見守る人々を心配させました。しかししだいに母親らしくなり、かいぼり効果で生き物が増えた池で、残る4羽の子供たちを育て上げました。オスもメスも地味で、チャームポイントはくちばしの先の黄色と、脚のオレンジ色ぐらいですが、留鳥のカルガモは暮らしぶりや子育ての一部始終を私たちに見せてくれる、井の頭公園の大切な仲間です。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』21号 2015年3月1日発行 掲載)

採食中のカップル

池で成長するヒナ

← 第20回「キンクロハジロ」

→ 第22回「エゴツルクビオトシブミ」