『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』29号 2016年7月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―
魅力的な「雑草」
妖しく美しい花は、夏の夕暮れに静かに開きます。雌雄異株のカラスウリは、遠く離れた雄花から雌花に花粉を届ける仕事を夜行性のスズメガの仲間に託しているからです。花がよい香りを放つのも、花びらが白くてレース状なのも、細く長い「がく筒」に蜜をたたえているのも、暗闇でも利く鋭い嗅覚と視覚を持ち、高速飛行もホバリングも自在で、長い口吻を持つスズメガに特化した結果なのです。
花のところで待っていると、運が良ければ、スズメガが音もなく飛んできて、空中でピタリと止まり、長い口吻をがく筒に差し込んで蜜を吸うのを見ることができます。雄花のほうが雌花より豪華で数も多いのは、スズメガを先に雄花に誘い、花粉を口吻に付けてから雌花に行ってもらうための工夫のひとつなのでしょう。
花は夜明け前に閉じます。一夜の役割を終えた雄花は折れて落ちますが、受粉できた雌花は子房が膨らんで小さな瓜になり、晩秋には朱色に色づいて枯れたツルにぶら下がります。それを食べるヒヨドリなどに種子の散布を託すのです。株は地中のイモ(塊根)に栄養を蓄えて冬を越します。植え込みなどの低木が枝と葉を展開し終わる初夏、イモの栄養を使って一気にツルを伸ばして這い上がり、葉を広げます。カラスウリとしては低木を頼っているわけですが、覆いつくされて日光を遮られるほうは迷惑なだけで、得るものがありません。当然、公園の管理者はツツジなどを覆っているカラスウリを除草します。
しかし、花がとても魅力的で、他の生き物との関係など興味深い生態を持っているカラスウリは、我々が毎夏行う夜の観察会の目玉のひとつです。そこで、観察する場所の株は除草を待ってもらうよう毎年お願いし、協力をいただいています。カラスウリの花を初めて見る参加者が多く、感動してもらえます。さらに、夜に活動する生き物たちのようすを垣間見て、いつも見ている昼間は自然の一面でしかないことに気づくのです。
田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。
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(『いのきちさん』29号 2016年7月1日発行 掲載)
雄花
がく筒と子房(開花中の雌花)