『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』33号 2017年3月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―
復活する在来エビ
どちらもテナガエビ科に属しますが、テナガエビの「手」、つまり最大のハサミ脚はスジエビより明らかに長く、オスでは体長以上になります。オスはその長い「手」を、繁殖行動のときメスを囲い込むのに使います。アメリカザリガニの大きなハサミが5対の胸脚のいちばん前の脚なのに対し、テナガエビ科の「手」は2対目です。ザリガニは動物も植物もよく食べますが、テナガエビ科はほぼ肉食で、水生の小動物や、魚などの死骸を食べています。
十年余り前まで井の頭池にたくさんいたテナガエビとスジエビは、外来魚のせいで激減しました。オオクチバスもブルーギルもエビが大好物です。かいぼり25 後の2014年と2015年は、神田川につながる「ひょうたん池」で見つかったテナガエビとスジエビはわずかでした。かいぼりで捕れた数が少なかったこと、それを再放流したのが上流のお茶の水池だったこと、そしてブルーギルが多数残ってしまったことなどが理由だと思います。それが、かいぼり27後の2016年には、ひょうたん池でテナガエビが1200匹以上、スジエビも900匹以上、調査用のワナに入りました。生息数が大きく回復したのです。
メスが卵を放すとき孵化する幼生は、しばらくプランクトン生活を送ります。どちらのエビにも、幼生が海まで降って成長し再び川を遡る「両側回遊型」と、一生を池で暮らす「陸封型」があり、異なる型は交雑しないそうです。上記の結果から考えると、井の頭池には陸封型が多い気がしますが、両側回遊型のテナガエビの特徴だという、とても長い「手」を持つオスも見つかり、明確なことは分かっていません。
残念なことに、子供たちにはアメリカザリガニのほうが圧倒的に人気です。テナガエビ科の魅力が分かる大人にお勧めしたいのは、日没後、岸辺の水中を弱めのライトで照らしてみることです。テナガエビもスジエビも眼が赤く光るので、岩の上などで活動中のエビたちを見つけることができます。
田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。
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(『いのきちさん』33号 2017年3月1日発行 掲載)