『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』36号 2017年9月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―
コウモリが消えた
日が沈むと、ツバメやトンボに替わって、この夜行性の空飛ぶ哺乳類が虫を捕りに現れます。日本に35種ほどいるコウモリの仲間のうち、都会で暮らしているのはアブラコウモリだけです。日中は人家の隙間などに潜んでいるため、イエコウモリとも呼ばれます。自在に飛べる翼を持ち、超音波を使って障害物や飛ぶ虫の位置を感知できるため、真っ暗闇でも採食が可能です。明るさの残る夕暮れ時や、外灯に誘われる蛾などの虫を捕っているときなら、飛び回る姿を見ることもできます。
コウモリが出す超音波を人に聴こえる音に変えてくれるバットディテクター(コウモリ探知機)を使えば、コウモリが超音波のパルスをどのように使って虫を見つけ、どのように位置を絞り込んで捕まえているのかよく分かります。どこにどのぐらいの数のコウモリが飛んでいるのかも分かります。身近にいるのに知られていないコウモリの観察は8月の観察会の人気のテーマです。ところが、今年は空振りでした。コウモリがほとんどいなかったのです。じつは、コウモリの減少は今年始まったことではなく、昨年も少なめでした。
考えられる原因のうち明らかなのは、以前はたくさんいた、夜飛んでいる蛾などの虫がほとんど見られなくなったことです。捕るべき虫がいなければコウモリは来ません。虫が減った原因は、最近増えた樹木の伐採と徹底した下草刈りのせいで、幼虫が食べる植物や、成虫が潜む場所が減ったからでしょう。夜しか現れず見たこともないコウモリが減っても問題ないと思うかもしれませんが、虫の減少は、野鳥などそれを食べる多くの生き物にも影響しています。
井の頭公園の自然は都民、とりわけ地域住民にとっては宝です。木々の高齢化や蚊などが媒介する伝染病など、最近は管理上の難しい問題がいろいろ生じています。しかし、それらの被害を防ぐことと、貴重な生き物を守ることは、もう少しきめ細かい管理をすれば、両立できるはずです。
田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。
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(『いのきちさん』36号 2017年9月1日発行 掲載)