『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』10号 2013年5月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―
平凡な主婦を変えた餌やり風景
大原正子 (三鷹市在住)
三人の子供の一番下が高校生になり、私もPTAを卒業して、さて、これからは好きなコーラスや声楽を楽しもうと思っていました。本当に平凡な主婦の生活をしていました。
当時犬の散歩で毎日 井の頭公園 に行っており、いつも私の犬を呼び止める一団が大量のエサをカモやカメに与えていました。皆良い人たちなのですが、そこに群がる生き物たちの姿は自然の姿とは程遠く、おぞましく、醜いものに見えました。
それを何とかできないものかと思っていたところに 井の頭かんさつ会(注1)と出会い、エサやり自粛キャンペーンのお手伝いをするようになり、いつの間にか事務局を引き受けることになっていました。その時から私の生活が一変したのです。
それまで自然の生き物とはご縁の無い生活だったのに、気が付いたらキッチンの窓辺に置かれているものが観葉植物から道端のエノコログサのような野草に変わり、井の頭池のモツゴ(注2)やタニシの入った水槽も鎮座しているのです。そして、時には夜中にまで公園の森の中を懐中電灯片手にウロウロして自然観察に夢中になっているという生活なのです。
何より変わったのは、池の魚といえばコイしか知らなかった私なのですが、外来魚が占拠している現実を知り、その駆除活動に一年の200日近くも携わっていることです。井の頭公園のすぐ隣りで生まれ育った私にとって、池の生き物たちは自分の大事な仲間たちなのです。彼らが外来魚によって絶滅するようなことはあってはならないことなのです。外来魚捕獲活動日には仲間たちと力を合わせ一日に5,000匹ものブルーギル(注3)を捕ることもあります。もしかしたら、個人活動レベルでは日本で一番多くブルーギルを捕獲している人間かもしれません(笑)。
それもこれも、自分がかつて癌を患ったことが根底にあるように思います。生きとし生けるものへの愛おしさが、癌からの生還とともに私の心の中に生まれたのです。そして井の頭公園の自然が、生き物たちが私の生活スタイルを変えてくれました。
(井の頭かんさつ会事務局長)
聞き手・写真 川井信良
(注1) 井の頭恩賜公園で自然環境教育や生物多様性普及・啓発活動を行うことを目標に活動しているグループ。本紙の『井の頭公園の生き物たち』の執筆者田中利秋さんが代表。
(注2) 在来種の淡水魚。関東ではクチボソとも呼ばれている。本紙創刊号で紹介。
(注3) 北米原産の外来種の淡水魚。強い繁殖力によって井の頭池で一番多い魚類となっている。
※本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』10号 2013年5月1日発行 掲載)
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