井の頭公園の生き物たち|第6回「トチノキ」

2018.01.26

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』6号 2012年9月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

人をも操るトチの実の魔力

本来は山地に生える樹ですが、井の頭公園にも大木が複数あります。手のひらを広げた形の大きな葉が特徴です。今年はその若木が公園のあちこちに生えているのにお気づきでしょうか。写真はその一例で、切り株は別の種類の木です。ほぼすべてが切り株の脇に芽生えています。

トチノキは9月の初めごろたくさんの実を落とします。殻が割れて出てくるのが「トチの実」と呼ばれる種子です。井の頭公園では落ちるとすぐに拾われてしまうので、いったい誰が拾うのか調べたことがあります。意外なことにほとんどが大人で、大部分の人が使うあてもないのに拾っているのでした。

落ちたばかりのトチの実には魅惑の輝きと重量感があります。一見栗に似ているのは、栗やどんぐりと同じ散布戦略を採っているからでしょう。リスやネズミなど、食べ物を蓄える習性がある動物に運んでもらい、食べ残されたものが発芽するのです。ただしトチの実は外観がさらに魅惑的で、どんぐりのシブより強力な苦味成分を持っています。より拾われやすく、より食べられにくいのです。そして、たっぷり詰め込まれた養分を使って40cmほども芽生えを伸ばします。

人もその魔力には抗えません。思わず拾ってしまったトチの実が干からびて部屋に転がっている人は少なくないのではないでしょうか。じつは私もその一人です。そんな人の中から、トチの実を公園じゅうに埋めて回る、リスを上回る働き者が現れたようです。もちろん、勝手に公園じゅうに種を蒔くのは人間には許されないことです。

いま井の頭公園では多くの木が伐り倒されています。木々が高齢化して危険性が増すなどやむを得ない面があるのですが、スカスカになるばかりの林を多くの人が憂えています。トチの実を切り株の脇に埋めて回ったのは、それへの抗議なのかもしれません。木を伐った後どう林を再生するのか、公園の管理プランが公開される必要がありそうです。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』6号 2012年9月1日発行 掲載)

トチノキの若木

トチの実


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