井の頭公園の生き物たち|第12回「コイ」

2018.02.16

『いのきちさん』過去記事紹介(『いのきちさん』12号 2013年9月1日発行 掲載)
―2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

じつはよく知らない魚

コイを知らない日本人はいないでしょう。エサを求めて人のもとに集まる大きなコイは公園の池の人気者です。しかし飼育・放流されているのは国外起源の飼育品種。井の頭池のコイも人が放したものかその子孫です。

ただし公園が放流したのはだいぶ昔の話で、湧き水が涸れて水草(沈水植物)が無くなって以降はコイは繁殖をしていません。コイは水草に産卵するからです。繁殖できていないことは、小さなコイをまったく見かけないことからも分かります。

それなのに今もコイがたくさんいるのは、飼っていたものを勝手に捨てる人がいるからです。自宅の庭を相続税対策のために潰した時、そこの池にいたコイを井の頭池に放した人が少なくない、と聞いています。

かくして井の頭池はコイであふれる池になりました。2006年にコイだけが罹るコイヘルペスが流行し、抵抗力が弱い錦鯉を中心に9百匹以上が死にました。感染したコイを誰かが放したからでしょう。それでも池にはまだ数百匹のコイがいます。捨て鯉は今も続いていて、見たことのない模様のコイが突如現れることがあります。

コイは付着藻類から水草、水生動物、落下動植物、そして人が投げるエサまで何でも食べますが、本来はあまり水が澄んでいない環境で暮らす魚で、2対のヒゲやパイプ状に長く突き出る口は泥の中の底生動物を探り当てて食べるのに適しています。硬い貝も、喉の奥にある咽頭歯で難なく砕きます。専門業者による調査の結果、一般的な池と比べて、井の頭池には底生動物が極端に少ないことが明らかになっています。おそらくそれは、たくさんいるコイのせいです。

飼育鯉は人工の池で人が世話をしながら飼うべきものであって、自然の池に放すべき魚ではありません。かいぼりが目指している、多様な生き物が暮らし、それらの総合力で水が澄む井の頭池を実現するには、コイのことを、そして他の多くの生き物のことをもっと詳しく知ることが必要です。

 

田中利秋 井の頭かんさつ会
井の頭かんさつ会代表。毎月自然観察会を開催。池の外来魚問題にも取り組む。

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(『いのきちさん』12号 2013年9月1日発行 掲載)


突如現れたコイ


← 第11回「ブルーギル」

→ 第13回「ゴイサギ」