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井の頭自然文化園の動物たちと飼育員|その6「タンチョウと野本寛二さん」

「いのきちさん」過去記事紹介(いのきちさん25号 2015年11月1日発行 掲載)
2011年11月から2017年11月にかけて刊行された、井の頭恩賜公園100周年カウントダウン新聞『いのきちさん』。ご愛読くださっていた方々の声にお応えし、掲載当時の記事をご紹介していきます―

ツルと聞けば誰もが知っている存在のタンチョウ(丹頂)。名前は「赤い頭」という意味で、羽毛のない頭頂部からは、くっきりと赤い地肌がのぞきます。

井の頭自然文化園にはオスとメス1羽ずついて、見た目には区別がつきません。身長約130cm の優美な立ち姿や、昔話の「鶴の恩返し」などの印象から、たおやかな性格を想像してしまうけれど、「抱卵中のオスは凶暴なんです」と飼育員の野本寛二さんは打ち明けます。

今年の春、2羽は同居を始めて、2つの卵が産まれました。有精卵かどうかを確かめるために、野本さんは何度も巣に近づこうとしましたが、「蹴られたら怪我をするし、オスは首を伸ばして、私のひたい辺りにくちばしを向けて威嚇するんです。掃除もなかなかできなくて、オスが卵を温めているすきに、巣から離れたところをささっと…」とトホホ顔。小屋の前を横切りたいだけでも、わざわざ遠回りをするほど、野本さんはオスを怒らせないように気遣ってきました。

転卵したり、温めたり、2羽が交代しながらかいがいしく卵を世話する様子は人気を集めましたが、ふ化する目安の35日を過ぎても変化がなく、けっきょく無精卵だったことがわかりました。2 羽の相性はよく、いまも仲良く同居しています。

 

取材:小田原 澪(おだわら みお) 編集者・ライター。フィールドは多摩。三鷹市在住

 

本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。
(いのきちさん25号 2015年11月1日発行 掲載)


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